モンタンのいた景色といない今。

「イヴ・モンタン 20世紀の華麗な幻影」(鈴木明)という本を読んだ。

イヴ・モンタンはすこし前からすごく好きで、
もう公演のDVDとかあれば欲しい。
歌も抜群だし、舞台での動きがほんと、
蝶のように舞い・・・なんて言葉がぴったり。

といっても、その伝記とか性格とかに興味があったわけではなく、
純粋に彼のステージに魅せられていたので、
関連書籍は多いけど、
特に読もうという気が起こらなかった。

でもこの本を読んで、
俄然、人物そのものにも惹きこまれた。

この本、
モンタン本人にまつわることは、
半分程度しかかかれていない(笑)。

あとの半分はヨーロッパの近代史というか、
戦前戦後の左翼の歴史というか、
ソ連と東欧その他の社会主義国家を中心に、
フランスと周辺諸国の関係と
それに関わっていくモンタンの姿を追っている。

ヨーロッパの歴史なんてほとんど知識がない人間には
駆け足の近代史解説ともなるこの本は、
とっかかりとしても面白く読める。

面白く、と書いたけど、
それは拷問とか虐殺とか密告とか亡命とか、
そこここで繰り広げられる
凄惨かつ悲惨なヨーロッパの歴史を追って見ることでもあり、
興味深くもあったけど、重い重い物語だった。

モンタン本人についても、
もっと優男でニヤけたプレイボーイかと思いきや(それでもいいと思うくらい好きだけど)、
どうもずい分硬派な人なんですね。
奥さんとは同士的な関係で、
大概行動を共にしていたようで、
夫婦で、政治や社会問題についてとことん議論していた様子も書かれている。

といっても、著者は本人に会ったことはない
(記者会見に参加したことはある)。
だからいろんな関連書籍や記事を、
私見を交えて語るので、
ほんとうのところ、は分からないのだけど、
分かったところでどうということもなし。
ほんとうのところってそもそも何なんですか、てなもんだし。
それにしても、ちょっと偏ってるかな、と思われないこともないんだけど、
まあでも、追々、あとは自分で情報を集めていくしかないわけだし。
まあ、まあ、まあ。

でも、ヨーロッパほか西欧諸国をよく回っていた人らしく、
当時の息遣いが
実際にその街を歩いた記憶といっしょに
立ち上がってくるようで、
それは素適な体験だった。

プラハの春や、ハンガリーでのソ連の虐殺行為、
スペインの内乱と独裁政治、
ポーランドの労働者による運動、
ベトナム戦争などへの関わり方、
アメリカという国家と、文化に対する彼の想い、
日本公演に際しての彼の感想。

彼は自らの矛盾を認める。
でもその行為にはみな誠意を感じた。
むしろ、一貫性を保つためにかえって矛盾していく「主義者」たちに、
私は疑問を持たずにはいられなかった。
そして苦悩しながらも考えること、行動しつづけることをやめなかった
彼の骨太な生き方には
とても共感する。
人間らしいってこういうことかな、
と思った。
ヒューマニズムに誠意を持たせたら、
彼のような形になるんじゃないだろうか。
私も見習おう。

彼の運動はすべて中途半端だと、言おうと思えば言える。
でも、
それは彼の役割としては充分だった、
と私は思う。
あらゆる悲惨な事実に出会い、苦悩することそのものが、
モンタンという強大な才能の持ち主が
体現して価値のあることなんだと思う。

フランスっていい国だな、
と、私は思った。

20年くらい前の新書になるけど、
浅野素女の「フランス家族事情-男と女と子どもの風景」
という本も、
フランス文化の興味深い人生観と、
その追求の姿を具体例を挙げて書かれていて、
それを読んだときも、いいな、と思っていた。

人種差別はあるし、格差もあるし、
外国人には冷たいなんて言われるけど、
とことんまで議論しようとすること、
考えることを止めない姿勢、
苦悩しながらも行動しつづけること、
そういう土壌が、この国には、
この国の歴史と文化には醸成されてきたんだな、
と思った。

政治的な発言、立場をとることを
時に厭わない。
風通しがよくていいな、と思う。
政治や社会問題と自分を切り離して考えないからだろう。
ある問題について、
国中でケンケンガクガクになっちゃって、
みんなが思っていることを言い合って、
議論がそこここで起こって、
なんて、
私に言わせればユートピアだ。
実際そんな風にいっているのかは知らないけど、
少なくともこの日本よりは、
とことん考えて生きる人が多いように感じた。
それは、
私はいいことだと思うのだ。

日本だって、あと200年くらいしたら、
そういう風になるかもしれない。
そのとき、
フランスはその先に進んだ姿を見せてくれるのかもしれない。
だからってそれを追随しなくてもいいんだけど、
やっぱりもっともっと
私自身声をあげて発信していかなきゃな。
国内外からの批判に打ちひしがれながらも、
行動をやめなかったモンタンは、
死後もなお私に勇気を与えてくれるってわけだ。
なんて偉大な人なんじゃ。
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by epsilongstocking | 2012-02-18 22:39