古本屋女房の本とこどもとしっちゃかめっちゃか


by epsilongstocking

しょうじょまんがとしょうねんまんが。

吉野朔美の「ぼくだけが知っている」という漫画をご存知ですか。
わたしは知りませんでした。
というか名前は知っていたけど読んだことがありませんでした。

ともかくこの本とっても気に入った。
自分のこどもに読ませてあげたい。だいぶ先の話だけど。
これと「氷の海のガレオン」という本はぜったいこどもに読ませたい。

主人公は小学4年生の男の子で、
地震とか雷とか台風が大好きで、その予測をピタリと当てる、
というか、「分かって」しまう。
勉強はできない。教師からは変わった子どもとみなされるが、
自分はずっと大人だと「知って」いる。
そういう子が4年生になり、強烈な個性の子どもたちが集まってしまったクラスのなかで、
1年を過ごすというもの。
他に登場する子どもがまたふるっている。
「スタイルのない人生なんてクズよ。あんたたちそれで平気なわけ?」
とか言ってのける女の子とか。

作者はそんな子どもたちの日々をまったく温かくない筆致で描き出す。

「氷の海のガレオン」についてはまたいずれ。
これから少女漫画と少年漫画について考えたいのだ。

この漫画、セリフにしろモノローグにしろ、
とにかく言葉がビシッと合っている。
言葉に対する作者のシビアな姿勢が好もしい。
これで言葉がなまっちろい借りもんだったらもうこの漫画はおしまいダ。

絵も好きだ。
でも好きなんだけど、この漫画に不細工はでてこない。
主人公もその友だちも、それから父母も、みんなきれいな顔だちをしている。
それからコマ割も、パッと見きれいなんだけど、
場面の流れとして「?」と感じるところがけっこうある。

そこから、これが少年漫画だったらどうなるか、と考えがとんだ。

物体や人の動きに重きをおいた、きっちりとしたコマ割。
集中線で視線を引きつける。
それからモノローグはなくなる。
そのかわり効果音、オノマトペをがんがんいれる。
セリフは基本的にふきだしの中。(誰が何を言っているのかはわかりやすく。)
画面はパッキリわかりやすく。
キャラクターは一目で見分けがつくように誇張した顔、体つきに。
1話完結でいくならば、起承転結を明確に。

ストーリーものとしてはテーマが地味だし
たいした展開もないので、
やっぱりギャグをいれていくか。

そうすると、この物語は小学4年の少年少女のすさまじい個性がとびかう
スラップスティックコメディになるのだろうか。
「浦安鉄筋家族」みたいな。
「すごいよマサルさん」みたいな。
ネームは多いままでしかもちょっと頭使うかんじでいくとすると、「聖☆おにいさん」か。

以上、「バクマン」的方法論で考えてみた。

で、これじゃもう「ぼくだけが知っている」の魅力はきれいさっぱり、なくなっている。

そんで、ここまで考えてみて、
「ちびまるこ」ってじゃあどうなんだよ、となる。(はい、ついて来てー。)
丁度主人公の年齢も近いし(まるこは小3)、
舞台も学校と家だし、ストーリーもまぁ地味だし、
でもこれはギャグがはいっている。
「ぼくだけが~」ももちろん笑える場面はたくさんあるけど、
それが主目的ではないわけで、いわばこれは「くすぐり」だ。
「ちびまるこ」には笑かそう、笑かそう、という意気込みがちゃんとある。
(笑えるかどうかはべつとして。)
で、これは少年漫画でもいけるかというと、
いけないのだ。
私の思う「まるこ」の魅力は笑いではない。
それはディテールだ。
たとえば道の脇に描かれる板塀、電信柱の上の電灯とか、コタツでミカンとか、
昭和なアイテムが作中で生き生きと存在しているのが好きなのだ。
モノローグのない「ちびまるこ」も考えられないし。
少年漫画のツッコミは主に登場人物によってなされるけど、
「ちびまるこ」においては作者のモノローグによる。

中間地点としては佐々木範子の「動物のお医者さん」とかか。

少年漫画と少女漫画ってどうしてこうも違う進化をしてきたんだろう?
こうして比べてみると、
男の脳と女の脳の違いなんじゃないかと思えてくる。

少年漫画で一番目に付くのは、
動きだ。
動きをいかになめらかにわかりやすく伝えるか、を最重要視していると思う。
それから人物の描き分け。
誇張をふんだんに取り入れて描き分ける。
竹を割ったようなストーリー展開。
人間の内面的複雑さではなく、
ゲームのルール、世界やシステムの複雑さはどんどん増していく。
主要な登場人物もどんどん増える。

ひるがえって少女漫画の環境設定は単純で浅くとも大して問題にならない。
人物の描き分けも、
「作者だけしか分かってないんじゃ?」と思うものも多い。
物にしろ動物にしろ、動きも無いに等しい。
そのかわり人物設定は複雑だし、
人間関係も複雑化しやすいけど、
登場する人数はそんなに増えない。
一定の人間関係を、何度も何度も、別の角度から描き出すことのほうが多い。
オムニバス形式もよくみられる。

少年漫画も少女漫画も、どっちだって面白いものは面白いし、
つまらないものはつまらない。
最近は両者の特徴の中間を行くものも増えている。

でも、これを男の脳みそ、女の脳みそに置きかえて考えてみたら、
結構おもしろいんじゃないのかなあ。
どうして男はメカに強いのか、
どうして女は噂話が好きのか、
やたらと動き回ることが好きな男子、
ままごとを好む女子、
説明が面倒くさい彼氏、
説明をしつこく求める彼女・・・・・

言葉に敏感なのはやっぱり少女漫画のほうだと思う。(独断)
浦澤直樹は少年漫画というより青年漫画かもしれないけど、
すごく好きだけど、登場人物のセリフにグッときたことは、じつはない。
なのに吉野朔美の言葉にどれだけ鼻血がでたことか。
そうそう、「登場人物のセリフ」ではなく、
「吉野朔美のことば」なんだよな。
言葉への志向に執念を感じる。

男、女の二元論で考えるのは好きじゃないけど、
まあこれは思考の遊びです。
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by epsilongstocking | 2012-01-15 23:02